小さな子どもの頃、リカちゃん人形を一つ持っていた。洋服も一組だけ持っていた。
あまりプレゼントの習慣が無い家だけど、たった一組の洋服は確かクリスマスプレゼントにサンタさん(一応)からの贈り物だったと思う。
その洋服はバブル世代のOLが着ていそうな、青と黒のチェックのウールのブルゾンに黒いタイトスカートだったはず。冬の贈り物だから冬服。
一組しか洋服を持っていないから春が来ても、夏が来てもずっと冬のOLスタイルのままだった。
他の友達は着せ替えの洋服を持っていた。うちのリカちゃんは「着せ替えないリカちゃん」だった。
おねだりしたところで買ってもらえない…
そんなある夏の日、祖母が枕カバーを縫っていた。
その生地は地元の五・十市の布屋で一緒に選んで買った、空に雲の模様の生地だった。いつもの「柿の種」の缶(裁縫箱)を持ちだして手縫いでチクチク。
リカちゃんの洋服、買ってもらえないなら…
「ばぁちゃん、リカちゃんの服作らんる?」
「できるこてー。」
そんなやり取りだったと思う。
枕カバーを作った残りのハギレをリカちゃんの身体に巻き、おおよその寸法を測り、布を切り、縫い始め、ゴムを入れ…
「できたよ。」
と筒状のワンピース、ウエストを共布の紐でキュッと結んで見せてくれた。
リカちゃんに夏が来た。リカちゃんの表情も明るくなった気がした。
あまりにも雰囲気の変わったリカちゃん。そのワンピースに合わせて迷いなく髪を短く切ってしまうほど私は嬉しかった。

(その後、モノ作りに励んだわけではなく、不器用だし面倒くさがりだし…  家庭科大嫌いだったのです、14歳までは。)

買えないならば作ればいい、それは思っているより簡単なこと。
そんな風に祖母の姿に教えられた気がします。
だから私は祖母に教えてもらったことを誰かに伝えたいなと思い、作業場を飛び出して誰かの目の前でモノ作りをしたいのです。

モノを作る原点である祖母は、縁側の作業場をこっそり覗き私の姿を見て喜んでいます。
「おらに似て“はつめ”らねぇ」と。


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