久しぶりに裁ちばさみでちょきちょき長い距離を裁つ。
縦糸を感じながら横糸を裁つ。
ひと裁ちひと裁ち、織りを感じながら裁つ。
切っているほんのすこしの接点を感じながらこれから刃を進める数センチ先に意識を向ける。


小学一年から高校三年までピアノを習っていた。
練習嫌いで楽譜があまり読めなかった。
ちょっと普通の子と違ったようでわたしに合った指導をしてくれていたと思う。
柔らかいクロスを触り、こんな風な音を
ルノワールの絵を見せ、この絵の更に遠くを思ってそこで響くような
ウィンド ベルを鳴らして、高音のイメージ
触る、見る、嗅ぐ、そこから音を探るようなことを教えてもらった。

だから音楽が好きだった。
好きだったけどその道には進まないと心を決めたけれど、進まなくても今までやってきたことは全て今やり始めている洋服を作ることに繋がる と先生は言った。

ピアノを弾いてその音を辿るように、裁ちばさみで布を裁つ。
鍵盤に触れた指先から弦を伝う振動が音になって空を漂う。
そんな風に布を切るときにイメージするの。
と先生は言った。
布を裁つ時だけじゃない、針を運ぶ時、ミシンをかける時、ドレーピングをする時… 何をする時にも音楽に触れている。
そして、音楽以外のたくさんの要素にも触れている と。

音楽を続けないんだ、と思っていたけど、これからも音楽に触れながらいるんだな、と思った目が醒める嬉しい瞬間だった。


久しぶりに裁ちばさみで布を裁ってそんなことを思い出した。