久しぶりに裁ちばさみでちょきちょき長い距離を裁つ。
縦糸を感じながら横糸を裁つ。
ひと裁ちひと裁ち、織りを感じながら裁つ。
切っているほんのすこしの接点を感じながらこれから刃を進める数センチ先に意識を向ける。


小学一年から高校三年までピアノを習っていた。
練習嫌いで楽譜があまり読めなかった。
ちょっと普通の子と違ったようでわたしに合った指導をしてくれていたと思う。
柔らかいクロスを触り、こんな風な音を
ルノワールの絵を見せ、この絵の更に遠くを思ってそこで響くような
ウィンド ベルを鳴らして、高音のイメージ
触る、見る、嗅ぐ、そこから音を探るようなことを教えてもらった。

だから音楽が好きだった。
好きだったけどその道には進まないと心を決めたけれど、進まなくても今までやってきたことは全て今やり始めている洋服を作ることに繋がる と先生は言った。

ピアノを弾いてその音を辿るように、裁ちばさみで布を裁つ。
鍵盤に触れた指先から弦を伝う振動が音になって空を漂う。
そんな風に布を切るときにイメージするの。
と先生は言った。
布を裁つ時だけじゃない、針を運ぶ時、ミシンをかける時、ドレーピングをする時… 何をする時にも音楽に触れている。
そして、音楽以外のたくさんの要素にも触れている と。

音楽を続けないんだ、と思っていたけど、これからも音楽に触れながらいるんだな、と思った目が醒める嬉しい瞬間だった。


久しぶりに裁ちばさみで布を裁ってそんなことを思い出した。
10月、2つの古い道具を扱うお店のお世話になる。

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2年前まで東京・西荻窪エリアに住んでいた。
駅から歩いて18分のところ、駅に向かうルートは3つ。
どの道も違う景色、違う雰囲気。
古道具屋さん、古本屋さん、喫茶店の多い街。

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今日、打ち合わせをしていたら昔住んでいた街を思い出した。
一つのお店は時々通る古本屋さんの多いあの通りにありそう。
もう一つのお店はいつも通る古道具屋さんの多い通りにありそう。
離れ難かった街を、こうしてまた記憶で辿る。

きっと何処でもまた自分の好きな まち を作ってそこに生きることができるんだな、
と思った。
幾つかの好きなお店や裏路地と、幾人かの好きな人たちと一緒に。

こんなに美しく穏やかな夕方を迎えることが人生であと何回あるのだろうか。
刻々と変わる空に大地が呼応して、一瞬一瞬が神々しかった。

日常のしごとも愛おしく感じた。
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色んな手段で映画を観ることができる。
同じ映画でも、いつ どこで だれと どんな風に観たのかによってより強く印象に記憶に残る。

子どもの頃、母が借りてきてみんなで観た ティム・バートンのビートルビジュース。
小学校高学年、家庭科室で観せられた デヴィッド・リンチのエレファントマン。
中学校の友だちみんなと三条東映ムービーに観に行った 家なき子(主演 安達祐実、堂本光一)。
記念のデートで観た ジャック・タチのプレイタイム。
勧められて借りてきて、返却するまで毎晩毛布にくるまって観た 王家衛の恋する惑星。

燕市役所、芝生の上 夜空の下で500人もの人たちと一緒に観た『みんなの学校』の帰り、記憶に残っている映画とその 時 の記憶を幾つか思い出した。
強く記憶に残っているものは、思い出すたびになんとなくその時の気持ちも蘇る。
今日もきっと記憶に残る、そしてまた思い出す。
思い出すたび、いろいろな気持ちがお守りのように心強いんじゃないかと思う。

!!明日13日はクロスパル新潟で上映会です!!
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ほんの少しわたしの個人活動とこの映画の感想と。
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映画の上映までランタン作りワークショップを担当し、たくさんの方にランタン作りをしていただきました。
みんなそれぞれ、想い想いに灯をともすランタンを作る姿に改めてモノを作る姿勢に現れる美しさを見せてもらいました。
一枚も写真はないけれど、皆さんが作ったもの、姿はどれも印象に残っています。
ありがとうございました。

そして、いつの間にか何人もの人が手伝ってくれていて、毎度視野の狭さに反省しつつも皆さんと一緒にワークショップを楽しめて本当に嬉しかったです。
いつもいつもありがとうございます、おかげさまです。

見つけて声を掛けてくださった方々もありがとうございました!!
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思いはいつの間にか溢れてしまっていて、気付く人にはバレてしまう。
隠すとかそれ以前に気付こうともしていないけれど、気付かれる。
今日はそんな<いつの間にか溢れてしまった思い>を面と向かって言われてしまい、向き合わざるを得なくて苦笑いに逃げてしまったけれど、バレていて、気付いてもらっていたことに少しホッとした。

向き合わせてもらったことで少し整理できた気がする。
『 と イカラシ』は誰かと共にモノを生み出す活動。
あなた という存在があってこその意義。
自分の多様性を試すというか、人と関わることで幅を広げるというか。
関わって、交わってこその活動。
時々行う美術作品を作ったり衣装の仕事は『イカラシチエ子』の個人活動。
こちらは自分の中をどんどん掘り下げていく作業。

容量は同じ粒子
広いところに放つか、より小さな場所に掘り詰めるか。

やるべきことがそれぞれ違う。
同一人物の表現ではあるけれど違うもの。
けれども根底にはおなじもの。

まだまだ始めて1年半、見る地点、方向、時期によって わたし は捉えどころのないように人の目には映るかもしれない。
2年、3年と歳月を経た時に今よりも わたし をぼんやりとでも輪郭を辿ってもらえるようにしていきたいと思う。

いや、あの人はまた言うかもしれない 輪郭など現さなくてもよい と。